昭和52年だかだからようやっと80年代になったころ、この表題作の「観音力疾走」が芥川賞候補になったそうで、今当時の選評を見ていると井上靖などがいい評価を与えているのだけれど今ひとつ票が入らなかったと言う。
お話は炭坑に住む3人の子持ちの女「わたし」が、同じ炭坑にいるひねくれ者で乱暴な男「あの人」と一緒になるという話。
前の夫は町で女を作って逃げた飲んだくれで、一番上の子どもは知恵おくれの13歳。炭坑にもこのまま置いてもらえるかわからず、貧しくてみじめで、まったく笑えない状況の中、「あの人」とのなれそめも、昼間、肩身が狭くておかみさん仲間と一緒に山に山菜とりに出かけられなかった「わたし」が、夜になって籠を持って山に入ったときに、炭坑でもまむしと呼ばれて恐れられる「あの人」と出くわしてそのまま押し倒されてしまうというみじめなものだった。
だがお話のトーンはまったくみじめなどではなくて、それはもう悔しかったりなんでわたしばっかりてんてこまいして走らなくちゃいけないのかしらなんて人生の不条理に涙したりする「わたし」だけれども、結構しぶとく生きている。
「わたし」は自己憐憫におちいってしまうほど自意識が強くない(イコール「わたしなんかはばかだから」)し、そのぶんどこかしっかりした所に根を持つ強さ,というよりやはりしぶとさがあるのだ。




毎度のことながらアサハカ。